納豆は、三百回は混ぜなくてはいけない、という信念を持っている。「それぐらい、混ぜないと本当のおいしさが出ない。でも、普通の細いはしでは三百回は大変。その点、このはしだと楽です」
ツアー中、仙台で購入したものだという納豆ばし。普通のはしより一回り太く、先端がつまっている。手元にへこみがあり、持ちやすいように工夫されている。器も、ざらっとしていて大きめの方が混ぜやすい。志野の変わり焼きがお気に入りだ。
納豆の混ぜ方にも、流儀がある。最初の五十回は、きょう一日を反省し、明日のことを考えながらゆっくりと。百回目からはしを握りしめ、無の境地で全力で混ぜる。百五十回目あたりでしょうゆとからしを入れて一息。三百回目で仕上げのしょうゆとネギを入れ、サーッとかきまわして出来上がり。
食事は、できるだけ自分でつくる。おかずは魚と納豆、つくだ煮という和食派。一緒に暮らしている母親に、その日あったことを報告しながら食べるのがいいという。
「今、音楽もパソコンで演奏されるようになって、スタジオの中は機械だらけ。家にいる時は、人間らしい手作りの暮らしをしたい」
アフリカ系アメリカ人が作った教会音楽「ゴスペル」の、日本における第一人者だ。毎年九月に、アメリカでゴスペル研修ツアーを開催しており、日本の若い女性がおおぜい参加するという。
「今は、若い人を引き付ける洗練されたショーがいくらでもある。でも、ゴスペルはショーじゃない。真実です。人生を歩もうとする時、愛と励ましをくれるソウルフードのような音楽です」
ソウルフードとは、アフリカ系アメリカ人の民族料理のこと。「大豆やトウモロコシを使った、洗練はされていないけど、大地の愛をたっぷりと含んだ手作りの料理。日本でいえば、納豆に似ています」(斎藤 雄介)